著書「花をながめて大切なことに気づく100の言葉」を発表しているほか、花写真専門の写真教室も主催している北村佑介さん。美しい花の写真を撮り続けている視点から、最新の中望遠マクロレンズ「XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro」の使用感を伺った。
──まず、北村さんの花写真とその特長を活かすためのレンズ選びについてお伺いしたいです。
僕は花の写真を撮ってはいるものの、花の名所にわざわざ出掛けることは少なくて、その辺の道端に咲いている花を撮ることも多いんです。そのような花を前ボケと後ボケを使い切り取るように撮影をするので、レンズは望遠であればあるほどいいと思っています。しかし、僕は腕力がないのであまりにも大きいレンズは持てないですし、400mmの単焦点などになるととても高価なので…。気軽に持ち運びができ、価格帯もそれなりという点で僕は135mmの単焦点をメインに使っています。また、望遠になればなるほどレンズも長くなりますから、花の茂みにカメラを潜らせて煽って撮るというようなことができなくなります。
──135mmの単焦点レンズをお使いですと、最短撮影距離の問題が出てくると思います。
そこは割り切っています。もともと僕は花を小さく写すことが好きで、花の写真だからといって画面いっぱい写すことは少ないですね。ですから、小さな花をいつもの撮影スタイルで撮ろうとするととても小さくなってしまいます。今回のようにマクロレンズを使うことで、普段は撮ることができずに諦める小さな花も撮ることができました。
──今回はX-H1とXF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroの組み合わせで撮影されています。ボケ味を重要視するスタイルとAPS-Cサイズのセンサーのマッチングはいかがでしたか?
ボケの豊かさも重要ですが、僕の作品はレタッチが必須のため、その行程でダイナミックレンジを可能な限り残したいという点で、これまではフルサイズセンサーにこだわってきたんです。しかし、今回提出した写真の中にはかなりシャドウ部を持ち上げたものもあるんですが、発色の美しさ、ノイズの少なさにとても驚きました。ボケ味も想像以上に良く、特にとろけるような前ボケが美しく積極的に写真に採り入れました。
この写真を提出したのは解像感が気に入ったからです。花のしべを見たときに感動しました。Xシリーズは解像感が高い印象がありますが、XF80mmF2.8 R LM OIS WR MacroとX-H1ではその良さを存分に味わえると思います。
前ボケが美しくとろけていて、ざわついていません。これだけボケてくれればフルサイズの中望遠レンズとなんら遜色ありません。藤の花はボケの中でざわつきがちになるんですが、まったくうるささは感じられません。そしてピントが合っている部分の解像感は素晴らしく立体感が際立っています。花びらの黄色の筋もくっきりと描写されていますよね。解像感が高いためにフルサイズと比較した際の被写界深度のわずかな深さが相殺され、豊かなボケ味として認識できるのだと思います。
──少し遠目から花を小さく捉えています。これが北村さんの撮影スタイルですね。
いつもの撮り方だと思います。これはムスカリの花で咲きかけですね。個人的に面白かったのは、このレンズとボディで良い写真を撮りたくて、遠征をして福島県の桜の名所である喜多方に行ったんです。でも、残念ながら体調を崩してしまってカメラをあまり持ち上げられず、桜ではなく足元のムスカリばかり撮っていたという。ボケの中のピンク色が桜です(笑)。レタッチでボケを強調してはいるのですが、もともとのボケが美しくなければこうはいきません。そして、Xシリーズは色が素晴らしいと言われますが、本当にその通りで、彩度を少し上げたり下げたりの微調整はしますが、色を変えるということは今回の写真通じて行っていません。さすがフィルムを製造しているメーカーさんだと感じました。
すみません、花の名前はわからないのですが、この黄色の花のように小さい花はこれまでのレンズではうまく撮れずにいました。XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroのマクロ性能を活かしてかなり近づいて撮影をしています。マクロレンズは解像度に性能を振っていてボケが硬く残りがちという印象を持っていましたが、葉の形がわからないくらいまでボケてくれました。大半がボケという写真が好きなので、こういう描写をしてくれるととても嬉しいです。
──この花はかなり至近距離からの撮影ですね。
マクロレンズなので少しは寄りの写真もと思いまして(笑)。今までマクロレンズはAFの信頼感があるものをあまり使ったとこがなくMFで撮るのが当たり前だと思っていたんですが、XF80mmF2.8 R LM OIS WR MacroとX-H1の組み合わせはマクロ域のAFも精度が高く、ほぼ全てAFで撮影しました。風が強い日で花も揺れていたのですが、AFスピードが速いため撮ることができました。
──マクロ域での手ブレ補正の効きはいかがでしょう。
僕は手持ち撮影が基本なんですがX-H1のボディ内手ブレ補正も合わせて素晴らしかったですね。花に近づいて撮るときは息を止めていて、手の震えが直に伝わるのですが、手ブレ補正でピタッと止まってくれました。特に近接撮影時に手ブレ補正の恩恵を感じましたね。
逆光気味の写真です。実はフレアはほとんど入っていなかったのですが、逆光っぽさを演出するために少し光を足しています。逆光でもコントラストは順光レベルで優秀で、被写体が浮き上がります。ゴーストは出ませんでしたね。逆光でも描写力が高い方が後から編集しやすいのでありがたいです。
これも前ボケが大切な写真だと思います。前ボケがとろけつつピントを合わせた花がきりりとしているのでメリハリが生まれています。背景は山で緑色がうっすらと見えるくらいでしたが、潰れない程度に暗くして仕上げました。
同じ場所で寄りで撮り、今度は背景の緑を持ち上げて仕上げています。明るく持ち上げるとノイズが出現する場合がありますが、XF80mmF2.8 R LM OIS WR MacroとX-H1の組み合わせではノイズは出現せず、このような編集も行えました。ノイズが気になると、先ほどのように暗く潰してノイズを目立たせない方向の編集をすることが多いんです。
マクロ域で撮影した写真の中でもいちばんのお気に入りです。花びらに砂埃が乗っていて、それすらもしっかりと描写しています。実はこれも手持ち撮影+AFなんです。すごいことですよね。もちろん数枚はシャッターを切りますが、カメラを前後させたりMFでピント位置を少しずらしたりすることもありませんでした。ここまで寄れるのはハーフマクロではなく等倍マクロならではですよね。正直、ハーフマクロであるのならば普通の望遠単焦点レンズでもいいなと思ってしまうかもしれません。
──XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroの使い勝手はいかがでしたか?
レンズに絞りリングがあるのはやはりいいですよね。ダイレクトに絞り設定ができるのは助かります。X-H1にもダイヤル類は豊富に付いており、通常は絞り優先AEで撮影していますが、急にマニュアル露出で撮りたくなるときなどにとても便利です。GFX譲りのサブ液晶も気に入りました。
──最後にXF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro、そしてX-H1はどのような人におすすめしたいでしょうか。
APS-Cのサイズ感の優位性などもあるかもしれませんが、それよりもレタッチをさほどしたくない人にオススメしたいです。フィルムシミュレーションによるJPEG撮って出しばかりがXシリーズでは注目されますが、RAWで撮影した際の色もとても美しく、現像ソフトでの作業がとても楽なんです。色をいじることはほぼ皆無というレベル。僕個人としてはフィルムシミュレーションをPROVIA/スタンダードにしておくと、RAWのデータとの色の差が小さく、PCにデータを移動してからも仕上がりの想像が付きやすいため作業がスムースだと思います。ボケ味、解像感、色。XF80mmF2.8 R LM OIS WR MacroとX-H1は、さまざまな良さが感じられて僕自身も撮影の幅が広がりそうです。
東京カメラ部コンテスト入賞者
北村佑介 Yusuke Kitamura
埼玉県観光PRフォトグラファーを経て、2015年に花を撮るフォトグラファーとして独立。年間150回の写真教室や、書籍・雑誌・企業への写真提供をメインに活動中。最近はメーカーへのレンズ作例写真の提供、トークショーなども。
著書に「花をながめて大切なことに気づく100の言葉」(かんき出版)・「最高の1枚を撮る・仕上げるで生み出す超絶写真術」(インプレス)がある。