独特の発色やトーンのポートレート、テーブルフォト、スナップなどを得意とする澤村洋兵さん。X-Pro2を愛用し、自身の手の延長のような感覚というほど使い込むなか、初めてのTシリーズとしてX-T3を手にした。一眼スタイルをさらに進化させ、第4世代センサーと画像処理エンジンを搭載したX-T3でポートレートを撮影した感想を伺った。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF16-55mmF2.8 R LM WR
──X-Pro2を愛用されているそうですが、その理由を教えてください。
僕は職歴が変わっていて、美容師、和食の料理人、バーテンダーを経て、カフェで働いていました。カフェではお店のインスタグラムの撮影を任されていたのですが、あまり大きいカメラを使うとお客さんが気にされてしまうので、小さくて感覚的に撮れるカメラを探していたんです。そのときに知人に触らせてもらったのがX-Pro2でした。サクサクと扱えるのにフルサイズに負けない画質で撮れると感じ、すぐに購入しましたね。とにかく操作しやすい。いや、操作をしている感覚がありません。カメラが手の延長になったように撮れるんです。そしてX-T3は、自分の手どころではなく、眼の代わりになってくれるカメラだと感じました。ちょっと言い過ぎかもしれませんが、瞬きをするような感覚でシャッターを切っているみたいな。
──どのようなポートレートを撮ることを心掛けていますか?
最初は女の子をかわいく撮ろうとしか考えてなかったのですが、途中からそこに行ってみたいなと思えるポートレートがおもしろいと感じるようになりました。キレイな場所だなと思ってもらえたり、そこに行ってみたいと思ってもらえるような写真ですね。それに気付いたときに、自分のポートレートのスタイルが決まった気がします。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF35mmF1.4 R
──それでは写真を見ながらお話を伺っていきます。
僕は写真の面積に黒が多いことが多いんですね。写真の中の黒が単純に好きなんです。X-T3の黒って締まっているのに情報は残っているんですよね。この写真でもドアの開き具合にこだわり、ドアのデザインがうっすらと見えるようにこだわって調整しています。撮影時は黒潰れを心配しましたが余裕で残っていました。明暗差が激しいとパワーのある写真になりますよね。このモデルさんはどの角度で撮っても魅力的だと思ったので、この子が引き立つような背景を作ることを心掛けました。指示は特にしていなくて、窓の外をふと見た瞬間を撮りました。X-T3はAFスピードも速く、瞬間を撮るのが得意なカメラですよね。AFモードはAF-Sとシングルポイントの組み合わせ。フォーカスレバーでピント位置は変えています。
──黒の部分のレタッチのコツは?
こだわって作った現像ソフトのプリセットがあり、それを利用しています。レトロなようでレトロじゃない。映像と写真の中間のような雰囲気。モノクロのグレー部分が好きで、カラーにもそこが欲しいんです。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF35mmF1.4 R
黒い服、背景の暗い部分、カーペットの影、レースのカーテンの影など、さまざまな影をしっかり分けて描写してくれていると思います。僕が思うに、富士フイルムはモノクロフィルムも製造しているメーカーなので、モノクロでいうグレーの豊かな階調の表現をカラーにも活かしているのだろうなと。肌色もキレイですね。ホワイトバランスはXシリーズ以外を使うときはマニュアルで色温度設定をしますが、Xシリーズではオートに頼ってしまいますね。外光と室内光が混ざっているようなときも、ちょうど良い色温度になると感じています。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF23mmF1.4 R
右奥のシャドウ部もしっかりと写っていますし、光の種類もしっかりと出ていると感じます。ブロックの形をしたガラスを通った光がプリズムのようになり、モデルさんの顔に虹色の光が写り込みました。太陽光以外はレフ板も補助光もない中でキレイな色で写ったと思いますが、僕の中では黒を見てくれ、という感じですね。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF23mmF1.4 R
どこまで明暗差に耐えられるのかなと考えて、少し意地悪に撮っています。手はハイライトがかなり強いですが、違和感ないですよね。APS-Cなのでダイナミックレンジが弱いのかなと思われがちですが、全くそんなことはないと思います。
──X-Pro2からはセンサーと画像処理エンジンが新しくなっていますが画質差は感じましたか?
描写そのものというより、レタッチ時に調整しやすくなっていると感じました。情報量が増えたことが要因かもしれません。同じ色の中の違う色が写ってしまったときに、ちゃんとレタッチで返ってくるんですよね。あと白飛びに強くなったなと感じます。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF16-55mmF2.8 R LM WR
顔の右半分がハイライト。こういう明暗差のある写真が好きなんです。真っ白と真っ黒みたいな。でも、それは何に起因しているのかは自分でもわかりません。僕は影響されやすい性格なので、見ると真似してしまうんですよね。だから、好きな写真家もいないんです。今までのライフスタイルの中から出て来るもので写真を撮っているのでしょうね。この写真は白目の見え具合にこだわりました。白目がどう見えているかが黒目が引き立たせる要因だと思っていて。下の白目をギリギリ出して、グッと引き込まれるような目にしようと。会話が届く距離での撮影が好きなので広角レンズが好きですが、XF16-55mmF2.8 R LM WRは望遠側の写りがすごくいいなと思いました。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF16-55mmF2.8 R LM WR
この子の横顔の美しさを撮るため、光が当たるところに顔を持っていき、それ以外の場所はグッと黒を締めるようなイメージで撮りました。黒が名脇役という感じですね。リップの赤がとてもキレイ。Xシリーズは赤が朱色に近く出る気がしていて好きです。赤だらけにすると少し派手になりますが、ワンポイントの赤くらいだと生きる発色だと思います。僕は京都出身なので朱色にはこだわりがあるかもしれません。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF16-55mmF2.8 R LM WR
XF16-55mmF2.8 R LM WRの広角端でパースを使い迫力を出そうとしました。また、洋服のテロテロした生地の立体感を出すのもテーマでした。ボトムは赤ですが、赤の中にもさまざまな赤が出ていて驚きました。本当にここまで写してくれるとカメラに頼ってしまいますね。
──X-Pro2とファインダーのスタイルは異なります。
ポートレート撮影時は顔をあまり出したくなくて、モデルさんにはレンズを通してカメラ越しに会話したいという気持ちがあります。ですから、ファインダーの位置的に顔が出てしまうX-Pro2よりもいいと感じました。スナップの場合は、X-Pro2のOVFを使い、MFで撮影することも多いです。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF16-55mmF2.8 R LM WR
太陽が傾いてきて影も伸びてきたので、その中に入り込んでもらいました。僕は普段、開放F1.4のレンズを使っていても開放は使いません。でも、最初から開放が暗いレンズを使うということもあまりしません。余裕のある使い方をすることでレンズの性能が発揮されると思っているためです。しかし、XF16-55mmF2.8 R LM WRは開放から充分な性能があり、ズームレンズはほぼ初めてでしたがとても使いやすいと感じました。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF16-55mmF2.8 R LM WR
緑の発色を見たかったのと、屋外で人だけがメインではなないポートレートを撮りたかったので新緑の東福寺で撮影をしました。敢えて晴天ではない日を選んでいます。新緑は曇りの日のほうがキレイに写りますし、弱い光りでどのような陰影が付くのか試したい気持ちもありました。ほんのりと黄色味がかっている緑が好み。ほとんどレタッチせずに好みの緑が出ました。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF23mmF1.4 R
強い逆光でどこまで写るのかと思い撮影しました。最初はボツにしようと思ったのですが、現像をしてみると、雲と青空がしっかりと出て、人物のシルエットの中にスカートの動きなども見えるくらい情報が残っていて、これはすごいなと驚きました。普通はここまで写らないと思います。
──最後にX-T3を使ってみての総論をお願いします。
カメラに望むものがほとんど詰まっている素晴らしいカメラだと思います。ポートレートにおいては、APS-Cならではのレンズの小ささは大きな利点で、モデルさんに威圧感を与えず、会話をしながら撮影できる点が特に気に入っています。とにかくJPEGの撮って出しがキレイなので、カメラっておもしろいという最も大切なことを簡単に知ってもらえると思います。カメラに興味を持つ人と出会ったときも一回撮ってみたら?と気軽に渡すことができるので、コミュニケーションツールとしてもすごく役立ちますね。
インスタグラマー
澤村洋兵
1985年京都生まれ。
株式会社CURBON CCO兼フォトグラファー。美容師、和食料理人、バリスタ、珈琲焙煎士など様々な職業を経験してきた異色のフォトグラファー。CURBONで販売中のLightroomのオリジナルプリセットは同社史上最高の売り上げを記録する大人気。撮る写真はカフェでの日常や人物写真、風景などバリエーション豊か。それぞれの職業で培った感性と類い稀ないセンスと器用さを武器に本人のライフスタイルの中にある瞬間を自分の色にして表現している。