アーティスティックな風景写真で活躍後、昨年から山岳写真の世界に足を踏み入れた長尾岬生さん。立山連峰など3000m級の名峰を踏破しながらの撮影に今回X-T3を初めて導入。小型軽量なミラーレスであることや、評判を聞き気になっていたという富士フイルムならではの美しい発色など、使ってみての感想を伺った。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF8-16mmF2.8 R LM WR
──山岳写真を撮りはじめたきっかけを教えてください。
元々はネイチャーフォトを撮っていましたが、美しい自然を求めていくうちに、いつの間にか山を登るようになっていました(笑)。知人に登山をしている方がいて、その方が撮る写真がとても魅力的に見えたというのも大きな要因かもしれません。本格的に登山をはじめたのは昨年の10月ですが、すでに3000m級の山に登っています。情景を切り取るというよりは、写真を見た人がまるでそこに立っているかのような気持ちになれる、体感できるような写真を目指しています。
──X-T3で撮影してみてのファーストインプレッションはいかがでしたか。
色が素晴らしいという評価は聞いていましたが、たしかに背面液晶モニターに表示される色からして美しく、普段使っているカメラとは別物だと感じました。イメージした色がそのまま出てくる感覚です。APS-Cセンサーとは思えない解像感の高さにも本当に驚きました。登山をするようになってから、カメラの重さと大きさも気にするようになっていたタイミングですし、ちょっともう戻れないなというレベル。また、氷点下であってもバッテリーの持ちも良く、ヘタりが速いと想像して予備を持っていきましたが必要ありませんでした。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF8-16mmF2.8 R LM WR
──それでは写真を見ながらお話を伺っていきます。
レンズは全てXF8-16mmF2.8 R LM WR。超広角の画角でその場の臨場感を写真に残そうと思いました。これは長野県茅野市の高見石という場所。曇っていて風も強かったのですが、雲の切れ間から太陽が出てきたとき、岩や雪面に光が当たり立体感が出たんですね。それを撮りたいと思いシャッターを切りました。シャドウ部の階調が豊かに出ている点と、X-T3ならではの深い青の出方が相まって、奥行きや立体感が強調されていると思います。このような根本的な描写の良さはレタッチでは表現しづらいことだと思っています。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF8-16mmF2.8 R LM WR
近くを通りかかり立ち寄った自然湖です。撮影スポットとして有名な場所ですね。雨が降り靄も出ているという湿度の高い条件だったのですが、ソフトな描写にならず、枝の1本1本の描写と湿度のモヤモヤが両立しているのがすごいと思いました。F11での手持ち撮影で、手前から奥まで、そして湖面の雨の模様なども緻密に出ています。PCのモニターで拡大表示したときに、どこまでも出ていて驚きました。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF8-16mmF2.8 R LM WR
星景写真においてもX-T3は力を発揮するカメラだと感じました。レタッチはほぼしていません。カメラ内RAW現像だけ。それでここまで天の川を描写できるのは脅威的だなと思いました。ちなみに、納品した写真のほとんどはカメラ内RAW現像で仕上げています。フィルムシミュレーションはASTIA。カラークロームエフェクトは「強」にし、シャドウは階調を滑らかにするために「−2」にしています。ISO3200でここまでノイズが少ない点も素晴らしいですね。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF8-16mmF2.8 R LM WR
これも高見石です。道中、広く抜ける場所があり、風が強く雲がすごいスピードで流れていて、風でできる雪の模様も印象的でした。雲の切れ間から見える暗い青もキレイで、X-T3を使うようになって空を多く入れる構図にすることが多くなったと感じています。ここまで白が多いと青被りしやすいですが、ホワイトバランスをオートにしても自然な発色になりました。信頼できるなと感じたので、昼間はほぼオートにし、夜間のみ曇天に設定しましたね。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF8-16mmF2.8 R LM WR
高見石の道中の林道です。この逆光の状態でありながらゴーストやフレアがほとんど出ない。X-T3とXF8-16mmF2.8 R LM WRの組み合わせを使ってみて最も感動した1枚です。このようなシチュエーションではパープルフリンジを処理するのがクセになっているのですが、あれ?出ていないぞ、と。階調も広いですし逆光性能も高い。シャドウ部は全くレタッチしていません。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF8-16mmF2.8 R LM WR
雲が風で流れていて、晴れ間が出た瞬間に撮っています。ただ日射しは強くなくかなり暗い状況。AFがしっかり動くかなと思っていましたが、画面のかなり端にAFポイントを移動させての撮影でも、高速・高精度でフォーカシングをしてくれました。かなり低照度でのAF性能は高いという印象です。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF8-16mmF2.8 R LM WR
続いては月明かりで撮っていますが、それでもAFはきちんと作動しました。月を隠している山に合わせています。まるで別の惑星のような印象に写っていますが、これもカメラ内RAW現像のみの仕上げです。テント泊をしていて、テントの真横から撮っています。一泊二日の行程でもバッテリーは1本で足りました。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF8-16mmF2.8 R LM WR
夕陽が山肌に当たり赤く染める「アーベントロート」です。明暗差が激しいですが、シャドウの階調や空のグラデーション、山肌がすごく美しく描写されています。手持ち撮影+カメラ内RAW現像でここまで表現できれば十分だと思います。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF8-16mmF2.8 R LM WR
右側の大きいな山が剱岳。夕方に雲海が発生するのはとても珍しいんです。ミラーレスであることは登山ではとても楽で、パッと取り出しやすいために、道中で気になった風景をいつもよりも多く撮れたと思います。ぶら下げて歩いても邪魔にならないですし、かなりの恩恵がありました。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF8-16mmF2.8 R LM WR
一緒に登っている人を後ろから撮らせてもらいました。人を写真の中に入れると、勇壮な場所であることがわかりスケール感が出ます。本当はセルフタイマーを使い記念撮影をするといいのかもしれませんが、自然を前にするとついつい忘れてしまいます。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF8-16mmF2.8 R LM WR
これは剱岳。朝日を浴びて山肌が赤く染まる現象「モルゲンロート」の時間帯です。モルゲンロートがもちろん主役ですが、僕は手前の岩肌のゴツゴツした質感も見せたいと思い、ピント位置は手前にしています。解像感が高いからこそ、その狙いがしっかり再現できていると思います。
使用機材: FUJIFILM X-T3
+ XF8-16mmF2.8 R LM WR
標高を下げて緑のある場所を探し撮影しました。カラークロームエフェクトをかけることで、緑の発色と質感再現がとても良くなると思います。シャドウ部の締まりもあるので立体感も出ています。ネイチャーフォトにおいて緑の発色は重要ですが、とてもナチュラルで僕が表現したい色になってくれました。
──X-T3を使ってみての総論をお願いします。
最も感動したのは解像感の高さとさまざまな収差のなさですね。フルサイズにも劣らない描写力だったので、十分に山岳写真のメイン機になると感じました。一眼レフと比較するとマニュアル露出の設定結果が背面液晶モニターに反映されるのは便利ですし、三脚を使い撮影することが多いため、ライブビュー撮影に特化したミラーレスであることも有利です。そして想像以上にタフ。低温でも雪が付いても安心感がありました。振り返って見ると、普段は大胆なレタッチをするタイプの僕が、せっかくの色を壊したくないと考えてJPEGに近づけたレタッチをしていたところが印象的です。やはりX-T3の色は素晴らしかったですね。今度は広角ズーム以外のレンズにもトライしてみたいです。
東京カメラ部10選2018
長尾岬生
1995年生まれ。北陸在住。
主に自然風景を撮影している。
活動していくコンセプトとして「アーティスティックなビジョンを風景と融合させ、自然の美しさを表現する事」を心掛けている。